病室
夜の１１時。涼子に起こしてもらって、彼女にはとりあえず帰宅してもらいます。疲労が完全に回復している訳ではないけど、うっかり二度寝でもした暁には、それこそ二度と目が覚めなくなってしまいます。「明日警察に行く」と公言したことよって、何らかの行動を起こすであろう人物が今夜ここに現れるはず…。
そして…午前１時。病室の暗闇の中で、「彼女はまるで、ああなる事を望んでいたようにも感じる…」と、死んでしまった亜希子の事を考える琢磨呂。
「人間は生きているからこそ意味がある…そして大事なのは、いかに生きるかだ」
少なくとも彼は「寝る為に起き、起きる為に寝るような人生は送っていない」ようです。考え事をしつつも廊下へ注意を向けていた琢磨呂の耳に……聞き覚えのある、あの音が。金属が擦れるような…車椅子の音。寝たふりをしているとドアが開き…部屋に入ってきた人物は…もちろん桃子。
桃子が来る
「あなたが…好きなの」注射器を片手に持った彼女は「王子様が教えてくれたの…こうすると、あなたが私の事を好きになってくれるって」…って、どこの世界に寝てる間に得体の知れんモン注射されて、喜ぶヤツがいるんだっつーの。亜希子さまパート２と呼んであげたくなります。
注射器を持った彼女の腕を掴み、驚きのあまり声にならない桃子から凶器を取り上げ…中身はシアン化水素かと訊いてみますが…どうやら彼女は何も知らないようです。王子様から手紙が来て指示に従っただけ…にしたって、１８歳にもなって自分が何をしてるんだか分かってないというのも…。王子様が誰なのかは、やはり桃子は知らず、「あなただと思っていたのに…」
ゴミ集積場で手に入れた彼女の日記によれば、３月２１日に休憩室のキャビネットに魔法の小瓶…シアン化水素のアンプルを置いたのは桃子のはず。しかし立つ事が出来ない彼女には、それが不可能だという矛盾が。それを桃子に訊くと…
「こうやって…入れたの」と、車椅子から自分の足で立ってみせる桃子。先だってある人物と会話していれば、その人物との何気ない会話に出てきた…ある言葉が琢磨呂の頭の中に浮かんできて、「王子様」の正体を確信することに。
桃子の告白によると、院長の野々村作治は桃子を度々休憩室に呼び出し、もてあそんでいたよーです。…ったく、亜希子サマという類稀なナイスバディの美女を妻にしておきながら何の不満があるっつーのよ、幼児体型にちょっとばかし凹凸がついた程度の子供に手を出すとはっ
!! などと若干外れた憤慨を野々村作治に抱きつつ… まぁ、実は幼女趣味だったのかも知れんが、ついでに口外したら友達にバラすと脅され、学校に行って友達に会うのが怖くなった桃子は、歩けない演技を続けていたことになります。
そしてカレンダーの×印は休憩室に呼び出された日を記録したもの。自分が院長先生を殺してしまったのか、と訊ねる桃子に院長のことは忘れるよう言い聞かせ、寝付くのを待って……。
ナースセンター
病室を出て、向かうのはナースセンター。ある人物がふと漏らした一言が、彼女が今回の事件の主犯である事を示唆しています。そのある人物とは………間宮千里。ナースセンターへ行ってみると、いるのは美保だけ。千里の所在を訊ねると、気分がすぐれないので屋上に風に当たりに行くと言って出て行ったようです。胸騒ぎを覚えて松葉杖を放り出し、屋上へダッシュ。骨折＋ギプス状態でよく走れるもんです。さすが天才。
屋上
息を切らしながら屋上への扉を開けた琢磨呂の前に…彼とは対照的に、ただ静かにたたずみ、街の灯火を見つめる千里の後姿。
エンディング№９
石膏のぶつかる足音が屋上に響き、しかし振り向きもせず前方に目を据えたままの千里に
「ここで何をしているのだ……王子様」
「あなたがここに来ると思って…待っていたんです」
王子様は、右足にゴツい靴を履いたシンデレラを待ってくれていた…ってとこでしょーか。
千里は、桃子を操って院長を殺害した旨を肯定。そして、王子様の正体がどうして分かったのか、と。
車椅子に座ったままの桃子では、キャビネットのアンプルをすり替えるのは不可能…つまり、桃子が立てることを知っていて、指示を出した人物こそが王子様。そして桃子が自分の足で立って見せた時、脳裏に浮かんだ、とある人物の言葉。
千里に桃子について質問した際、彼女がもしかしたら…と洩らした推測、「日記の隠し場所はクマさんのポケットかも」というあのセリフ。クマのぬいぐるみが置いてあるのは、車椅子のままでは手の届かない高い位置。そこに隠すのが可能な事を…つまり立てることを千里が知っていたという事実が、何気ない言葉の中に現れてしまった…。
「本当に海原さんって…すごい探偵さんなんですね」
まぁ、天才ですから。ようやくこちらを振り向いた彼女は、何故かすっきりした表情。琢磨呂が千里の犯行だと探り当てるまでに推理した事を、いくつか確認してみます。院長を殺した動機は、桃子にしていた事への怒りもあったが、直接的には院長夫人である亜希子への憎悪。財布を盗んだというヌレギヌを着せられた千里は、皆の前で服を脱ぐよう言われて、身に覚えのない理不尽な屈辱に激しい憎悪を亜希子に対して抱いたようです。今は亡き亜希子サマは「院長夫人は…異常です」などと千里に言われて、そりゃまぁ…女王サマがサディストなのは常識だし…。この病院が滅び、亜希子が苦しむ様を見たかった…。
桃子を利用したのは、院長に「自殺」してもらう為。他殺で死なれては結果的に亜希子の望みどおりになってしまうし、事前にアンプルをすり替えたのでは気付かれる可能性が高くなる。桃子と院長の密会を知る者は日記を読んだ千里以外におらず、用心深い野々村作治と言えども桃子相手では警戒する筈もないから、当日にその場で桃子にアンプルをすり替えてもらう必要があった…。まぁ、桃子は何も知らなかったとは言っても、事実上の実行犯で殺人者になってしまったわけだから、個人的には千里に完全には同情出来ない部分もありますが。
３月２１日を決行日としたのは、あの日亜希子が休憩室へ来ることを、桃子の日記から知ったからで…そして…
「そして最後は…私を殺そうとしたのか？」
という問いに、「いいえ…」と否定する彼女。先程の注射器の中身はタダのビタミン剤だったらしく、どうやら彼女は犯人を突き止めた琢磨呂がここに来るのを、最初の言葉どおり待っていたようです。
「もし注射器の中身がシアン化水素でも…あなたは私に殺されるような人じゃありません」
………それについては何やらコメントしたくない気もするが。待てど暮らせど屋上に来てくれなかった場合は、別の方法で千里は罪を償ってしまうけど、真実さえわかればいい…と、罪を償うべく警察に出頭するつもりの千里を残して屋上を去る琢磨呂。やるべきことを終えた探偵には、もはやこの病院には居場所がありません。
ああ、そういえば………よく考えてみれば仕方ないとはいえ、亜希子サマは報酬をきっちり踏み倒してくれたので、やっぱりタダ働き。真実を得た充実感と無常感（一応、他人の罪や秘密を暴く職業であるが故の無常感だが）を、感じずにはいられない今日この頃。
さっさと退院して、新たな事件を待つことにしましょう。
エンディング№８
はずれその２。桃子の寝顔を見ているうちに、一緒に寝入ってしまった琢磨呂は、翌朝病室へ訪ねて来た涼子に起こされ…
「千里さんが…死んだわ」
昨夜、屋上から飛び降りて即死。昨日に続いて警察が来て大騒ぎになってるようです。真実を目の前にして永久にそれを知ることが不可能に。仮にほぼ正解の推測が出来ていたとしても、千里の例の言葉を聞いてなければ、王子様の正体に確証が持てない事になるし。
「たぶん…私も負けたのだろう」と、その場でベッドの下のカバンを引っ張り出し、有り金すべてをベッドの上に残して（律儀に治療費は払うようです。結局のところ報酬は踏み倒されたのに）、誰にも何も告げず、病院を去ることに。依頼主であった亜希子も、そして千里もいなくなった病院には、もはや探偵である主人公の存在理由はない……。行く当てもなく、自分を必要とする場所を探して逆風に向かって松葉杖で歩き続ける…という、虚し過ぎる結末。故意でなくてここまで来てこのエンディングになったら、かなりイヤかも。何やら情けなさが漂う、みたいな。
ここでヒントをくれるのは涼子。「桃子ちゃんが部屋に来て、そのまま眠ってしまうからいけないのよ…もっともそれは、千里さんに冷たくしたのが原因なんだけど」という事で、実際に「桃子とうたた寝してしまう」という選択肢があって選んだのならそれはそれでいいけど、ここではチャート17で千里の相談を受けて要望に応えないと、千里＝王子様の確証が掴めず、寝てる間に千里に自殺されてしまいます。まぁ、犯罪を犯した人間が全員いなくなるから（桃子はともかく…）、事件のケリが一応ついてしまった事にはなりますが。
事務所 梨恵または美保が来訪
一週間後。ここでは、チャート１５で御子柴に会って例の件を知っていれば、古巣の事務所を御子柴から取り戻すことに成功し、会ってない場合は涼子の出資で（てゆーか涼子に借金して）新たな事務所を構えることになります。
「なんでおまえがここにいるんだ？」という琢磨呂の言葉など聞こえないフリで、いつの間にやら部下または助手と化している涼子。
チャイムが鳴り、来客が。シナリオの進め方によって、ここで来訪するのは梨恵または美保。しかし同室に涼子がいるものだから、どちらかが相手にコワい視線をとばすことになります。気の強い順と言うのか、美保→涼子→梨恵の方向にガンをとばしてるあたりが、実に説得力があります。概ねチャート８で美保を助けていれば美保が、それ以外で普通に進めていれば梨恵になる…ハズ。
お茶を入れてもらう
来客にお茶を入れようとした涼子と、「忙しそうだから私が…」と申し出る梨恵または美保。どちらに入れてもらうかでハッピーエンド中のエンディングが変わりますが…個人的には…やはり涼子。いちばん最初に出てきた事もあって、愛着があるというか…。選んでもらえなかった場合、一様に哀しそうな顔をして、涼子の場合は意味もなく買い物に、他の二人は来たばかりなのに、ちょっと寄ってみただけだから…という感じで帰り支度。
そして事務所に一通の手紙が。かなり分厚いそれは…桃子からの手紙と、捨てられた筈の王子様の手紙。自ら警察に出頭した千里は、すべて自分ひとりの犯行だと供述し、桃子については永遠に沈黙するつもりのようです。ついでに千里一筋純愛一路の譲治クンは毎日面会に行ってるらしいです。ちょっと感動。桃子の手紙は、王子様の手紙によって自分が実行犯であった事実を公表してくれという内容のものですが…千里が黙っているつもりである以上は…
「時には…嘘をついていい時もある」
手紙を破り捨ててゴミ箱に放り込み「お茶を入れたらさっさと自分の家に帰れ」と涼子に言うと…どうやら彼女は今朝、自分のマンションを既に引き払ってしまっているようで、用意周到と言うか迅速と言うか…。仕方ないので、春めいてきた陽射しの中で午後の紅茶タイムを楽しむことにします。
